講師 お茶の水女子大学 生活科学部 助教授 池本 真二 先生
『管理栄養士は「日本人の食事摂取基準(2005年度版)」をバイブルに』という方向性のもと、食事摂取基準全般と脂質分野に関する考え方、その活用方法について講演が展開されました。
食事摂取基準2005年度版の背景には、米国およびカナダの食事摂取基準Dietary Reference Intakes (Institute
of Medicine, 1997) があり、その考え方を基礎として日本版が作成された。食事摂取基準の指標は、エネルギーのEER(推定エネルギー必要量)、およびそれぞれの栄養素におけるEAR(推定平均必要量)、RDA(推奨量)、AI(目安量)、DG(目標量)、UL(上限量)の5種類で構成されている。なお、DGは「生活習慣病の一次予防」に焦点が当てられており、これは日本独自の考え方として策定された指標である。
食事摂取基準の基本的な考え方として、摂取量を「範囲」で示すという方針が導入されている。それにより従来の充足率という考え方で評価できるものではなくなった。また、確率論的な考え方の導入から、指標の解釈にあたっては「集団の○%が必要量を満たす」というものであることを理解することが必要である。
脂質に関する基準は、第五次改定日本人の栄養所要量までは策定されていなかった。第六次改定日本人の栄養所要量ではじめて設定されたものでありその歴史は浅い。そのためデータが不足している部分も多いことから、今後データを蓄積しより正確な基準を策定していくことが望まれる領域である。
脂質に関連した食事摂取基準としては、総脂質と4種類の脂質(飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸、コレステロール)が設定されている。総脂質および各脂質のEAR、RDA、ULを算定するにあたっては科学的な根拠が不十分という理由から、2005年度版ではAI(目安量)とDG(目標量)が設定されることとなった。これらの設定においては平成13年度国民栄養調査結果(性・年代別)を基礎データとして用いている。
総脂質の摂取基準は、絶対量ではなく総エネルギー摂取量に占める割合(エネルギー比率:%エネルギー)が用いられている。この背景には脂質の食事摂取基準は、炭水化物やたんぱく質の摂取量を考慮に入れる必要性があることがあげられる。
飽和脂肪酸も総脂質と同様、エネルギー比率(%エネルギー)で示されている。またDGも総脂質と同様○%〜○%という範囲で示されている。これは過少による欠乏と過剰の両方の場合に、健康を害するリスクがあるという科学的根拠を意味している。
必須脂肪酸では、n-6系脂肪酸は、絶対量(g/日)とエネルギー比率(%エネルギー)が併記されており、n-3系脂肪酸は絶対量(g/日)による基準が定められている。必須脂肪酸は総エネルギーの影響を受けないことから絶対量による表示が適当であるが、介入研究などでエネルギー比率が用いられていることから併記されている。なお、n-3系脂肪酸は、わが国の場合日本人は魚介類を日常的に摂食する民族であることから摂取量に関する調査データもあり、今回摂取基準を設定するに至った。しかし海外ではデータが乏しく、α-リノレン酸という形で示されているのが実状である。
コレステロールは、男性750mg/日未満、女性600mg/日未満と設定された。性による基準値のちがいはエネルギー摂取量のちがいによるものである。
その他食事摂取基準2005年度版に基づき特殊脂肪酸・脂質の問題、高コレステロール血症者への対応に関する基本的な考え方についての解説が行われた。
栄養士法の改正に伴い、管理栄養士は個人の状況をアセスメントし、個別の対応を行っていくことが責務となった。食事摂取基準の活用にあたっても「集団」における「個人」という視点が必要とされており、集団給食の場面であってもそれを利用する利用者一人ひとりについて考えていくことが求められている。
(文責 研究教育 K.T)