疲労と栄養管理 講演1 「疲労とは何か?」

疲労定量化技術と抗疲労トクホの開発

講師 大阪外国語大学保健管理センター 助教授 梶本 修身先生

 今日、老年人口とともに医療費は増え、医療保険破綻が心配されています。政府は保険と保険外の混合診療推進を考えています。現在の歯科治療で行われているような治療の途中から保険を使用しない治療を続けられるものです。今後、保険外診療が増え、患者さんの自費診療になれば、患者さんが納得し、喜んでもらえる医療を提供しなければならないでしょう。老化の不安感からの解放、痛みなど不快感からの解放など患者さんが望むサービスを提供していくという新しい考え方が必要です。そして今私たちが一番注目しているのが「疲労感」。不快の象徴ともいえる疲労感を取り除くことができれば、医療の存在価値が認められます。疲労を医学・科学の世界でなんとか克服したいということで、産官学連携の疲労定量化および抗疲労開発プロジェクトができました。
日本の就労人口約8,000万人中、6割の4,720万人が「疲れている」と回答し、そのうち2,960万人が「6ヵ月間以上疲れたままの状態が続いている」と回答、慢性疲労の状態です。日本がいかに疲労大国かを示しています。そこで日本人の好きな疲労回復方法について調べてみました。温泉(入浴)・入浴剤・コーヒー・栄養ドリンク・マッサージ。これらは、疲労感がやわらぐ、さわやかな気分になるという感覚的なもので、疲労が回復しているのとは別のようです。栄養ドリンク利用者は多いようですが、人に対する効果を確かめたデータはありません。
日本の疲労研究のスタートは、文部科学省の 疲労と疲労感に関する分子神経メカニズム研究班でした。当初は、慢性疲労症候群を病気としてとらえて、疲労のメカニズムの解明から出発しました。その後、総合医科学研究所・産官学連携の疲労定量化および抗疲労開発プロジェクトの疲労バイオマーカーを開発、疲労定量化、抗疲労食薬を開発へと発展し、「21世紀COEプログラム」に選ばれ、世界のトッププログラムとなったわけです。疲労の定義は、「過度の肉体的・精神的な活動により生じた独特の病的不快感と休養を求める欲求を伴う身体・精神機能の減退状態。非生理的で過激な筋肉運動や精神作業を禁ずる内部警告。→重要な生体防御機構」とされています。疲労感は、主観的で、意欲のわく仕事なら疲労は感じないこともあり、疲労感の乏しい疲労が蓄積すると過労死することさえ起こります。疲労蓄積をまったく感じていないことが危険です。
ストレスから見た疲労の分類には、肉体疲労・精神疲労・環境疲労・免疫学的疲労があり、疲労の原因が異なれば、疲労の質や強さも異なります。実験的な疲労負荷を与え、血液・唾液・血糖値など測定していきます。疲労の評価方法として、臨床医学的なバイオマーカーを開発し、生理学的なマーカー・生化学的なマーカー・免疫学的なマーカーで疲労感を測定しています。
実際の疲労の評価方法には、免疫学的なマーカーの一例として、ヘルペスのように健康な時は体の奧に潜んでいたウイルスが疲労により、活性化し出てくるといった現象をとらえ、唾液中のウイルス測定をします。生理学的マーカーの例では、疲労でまわりをみる周辺注意力視野がどう変わるか?ATMTで疲労度を見るというものがあります。バイオマーカーの動きから疲労を定性化、定量化し、その結果、例えば森林浴効果など抗疲労物質の研究を行っています。
ここまでの成果としては、効果が期待できるかもしれない食品として、アスコルビン酸・ビタミンE・ポリフェノール・コエンザイムQ10・カルニチン・トリプトファン・BCAA・アルギニン・クエン酸などが候補にあがっています。疲労感を緩和したり、麻痺しているだけなら、リバウンドが危険です。タウリン・ビタミンB1など効果がなかなか確認できないものもあります。
最終的に私たちが求めるものは、疲労を軽減することで、生活習慣病に効果・老化も防ぐ快適で豊かな社会の実現、生産効率のアップによる産業活性化、予防医学の実現と医療費抑制です。節制して健康になる人は一部であり、忙しい、食事は不規則、食育といわれてもできない人も多くいます。疾病予備軍(トクホ対象者)3,000万人、トクホの利用価値期待がますます大きくなります。疲労のない快適な生活の実現めざし抗疲労トクホ研究が進められています。

文責 K.T)

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