財団法人住友病院 泌尿器科主任部長 吉岡 俊昭 著
尿路結石症は食生活と密接な関係のある疾患です。二つの世界大戦後には食糧事情の悪化に伴いその頻度が著しく低下していることや、第二次世界大戦後の高度成長による生活水準の向上とそれに伴う食生活の変化によりその頻度が著しく増加したことからも、食事との関係の強さが想像されます。いまでは大阪のような都市部では10人に一人は一生のうちに一回は罹患するほどであり、そのうち30〜50%が再発するといわれています。これだけ頻度の高い疾患であるからこそ、また食事による予防が重要であるのです。また、関係3学会により2002年に作成された尿路結石症診療ガイドラインの再発予防ガイドラインにも、食事指導が細かく記載されています。ここではこのガイドラインにそってのべます。
尿路結石の種類にはシュウ酸カルシウム結石、リン酸カルシウム結石、尿酸結石、シスチン結石、リン酸アンモニウムマグネシウム結石などがあります。この中でシュウ酸カルシウムを含むカルシウム結石は結石全体の80%を占め、尿酸結石とともに食事療法の対象となります。
すべての結石において、まず再発予防の基本となるのは水分摂取です。1日尿量2000ml以上では結石形成頻度が低下するといわれています。そのために食事以外に2000ml以上の水分摂取が必要です。ただし尿中の結石形成促進物質(カルシウム、シュウ酸、尿酸など)の過剰排泄をきたすような飲料は避ける必要があります。砂糖はカルシウム排泄を増加させるため、甘い清涼飲料は避けます。また、ビールはプリン体を多く含むため特に尿酸結石では過剰摂取は避けます。紅茶、緑茶はシュウ酸の含有が多いので過剰摂取は避けます。適当なものとしては麦茶やほうじ茶、水道水といったところでしょう。
結石患者の多くが一日の食事量の半分近くが夕食に偏っており特に夕食での動物性蛋白の摂取量が多くなっています。規則正しくバランスのいい食生活を指導するとともに、尿中への結石形成物質の排泄の多い食後4時間を過ぎてから就寝するように心がけます。
古くはカルシウムの摂取制限がカルシウム結石の形成を減少させると考えられていましたが、今では腸管内のカルシウムの減少はそれに結合するシュウ酸の減少につながり、吸収されるフリーなシュウ酸が増加することにより結石形成のリスクは増加すると考えられています。むしろ、適度なカルシウムの摂取が結石の発生頻度を減少させるという結果が報告されています。実際には、600〜800mg/日程度の摂取が推奨されます。
カルシウム結石のもっとも重要な結石形成促進物質とされ、わずかな尿中シュウ酸濃度の増加により、シュウ酸カルシウム結晶形成は著しく促進されます。尿中に排泄されるシュウ酸の10〜15%が食事由来といわれます。シュウ酸の吸収を減少させるには、ほうれん草、たけのこ、チョコレート、紅茶などシュウ酸含有の多い食品の過剰摂取を控える、あるいはシュウ酸摂取と同時にカルシウムを摂取し腸管から吸収されるフリーのシュウ酸を減少させる工夫が必要です。たとえば、ほうれん草にはちりめんじゃこをかけて食べる、紅茶はミルクティー、チョコレートはミルクチョコレートといった具合です。
尿中ナトリウムが増加するとカルシウム排泄も増加するといわれています。食塩摂取量は10g/日を目安にします。
炭水化物(穀物)には食物繊維やマグネシウムが多く含まれています。食物繊維はカルシウムと結合し吸収を減少させます。マグネシウムは腸管内でシュウ酸と結合しシュウ酸の吸収を減少させるとともに、尿中では結石形成阻止物質として働きます。砂糖の過剰摂取は尿中カルシウム排泄を増加させるため、高カルシウム尿患者には砂糖の摂取を控えさせます。
尿中のクエン酸は結石形成阻止物質とされ、結石患者の尿中排泄量が低下しているといわれています。クエン酸を多量に摂取するには野菜や果物を多く摂ることになりますが、これは同時にシュウ酸の多量摂取の危険性もあります。クエン酸は体が酸性に傾くと腎からの排泄が減少しますので、尿中へのクエン酸排泄を増加させるためには、動物性蛋白や砂糖の多量摂取からくる体の酸性化を是正するほうがいいようです。
尿路結石の食事指導はまさに生活習慣病の食事指導と共通した点が多くあります。このことを含めて指導されてはいかがでしょうか。