用語集(食中毒編)

今回から、各号において栄養士のための用語集を掲載していきます。第1回目は年中起こる食中毒菌についてまとめてみました。

厚生労働省の統計をみると、毎年2〜3万人の患者が発生し、一向に減少する様子がない食中毒。現在日本で食中毒原因物質に指定されているものは18種類の食中毒菌の他、ウィルス等があります。かつては、腸炎ビブリオ、ブドウ球菌、サルモネラ属菌が三大食中毒として挙げられていましたが、近年の食生活の欧米化にともない、サルモネラ属菌、ウェルシュ菌、カンピロバクター菌やノロウィルスによる食中毒が増加しています。

サルモネラ属菌
サルモネラ (Salmonella enterica )は食中毒(感染性腸炎)の原因菌や2類感染症であるチフス、パラチフスの原因菌となる数千種類の膨大な菌種、菌型群の総称です。
特徴  動物の腸管、自然界(川、下水、湖など)に広く分布。生肉、特に鶏肉と卵を汚染することが多い。乾燥に強い。
過去の原因食品 卵又はその加工品、食肉(牛レバー刺し、鶏肉)、うなぎ、すっぽんなど。二次汚染による各種食品。
対策 肉・卵は十分に加熱(75℃以上、1分以上)する。卵の生食は新鮮なものに限る。低温保存は有効。しかし過信は禁物。二次汚染にも注意。
カンピロバクター
カンピロバクター・ジェジュニー(Campyrobacter jejuni )カンピロバクター・コリ(C.coli
特徴 家畜、家禽類の腸管内に生息し、食肉(特に鶏肉)、臓器や飲料水を汚染する。乾燥にきわめて弱く、また、通常の加熱調理で死滅する。
過去の原因食品 食肉(特に鶏肉)、飲料水、生野菜、牛乳など。潜伏期間(1〜7日)が長いので、判明しないことも多い。
対策 調理器具を熱湯消毒し、よく乾燥させる。肉と他の食品との接触を防ぐ。食肉・食鳥肉処理場での衛生管理、二次汚染防止を徹底する。食肉は十分な加熱(65℃以上、数分)を行う。
ウェルシュ菌
クロストリジウム・パーフリンジェンス(.perfringens)という名称で分類されているが、以前は .welchii と呼ばれていたため、現在でも慣用的にウェルシュ菌と呼ばれている。
特徴  人や動物の腸管や土壌、下水に広く生息する。酸素のないところで増殖する菌で芽胞を作る。芽胞は100℃、1〜3時間の加熱に耐える。食物と一緒に腸管に達したウェルシュ菌は芽胞形成時に毒素を作り、この毒素が食中毒を起こす。事件数の割りに患者数が多く、しばしば大規模発生がある。
過去の原因食品 多種多様の煮込み料理(カレー、煮魚、麺のつけ汁、野菜煮付け)
対策 清潔な調理を心がけ、調理後速やかに食べる。食品中での菌の増殖を阻止するため、加熱調理食品の冷却は速やかに行う。食品を保存する場合は、10℃以下か55℃以上を保つ。また、食品を再加熱する場合は、十分に加熱して増殖型菌(栄養細胞)を殺菌し早めに摂食する。ただし、加熱しても芽胞は死滅しないこともあるため、加熱を過信しない。
ノロウィルス
Norovirus。従前はSRSV(小型球形ウィルス)と呼ばれていた。
特徴 冬場に多く発生し、二枚貝の生食や調理従事者からの二次汚染による様々な食品が原因となる。人から人への二次汚染もある。逆性石鹸やエタノールに抵抗性があるため、器具や床の消毒には高濃度の次亜塩素酸ナトリウムを用いる必要がある。少量のウィルスでも発症する。
過去の原因食品 貝類、特に生カキ。調理従事者からの二次汚染によるサンドイッチ、パンなど。
対策 二枚貝は中心部まで充分に加熱する(85℃、1分以上)。野菜などの生鮮食品は充分に洗浄する。手指をよく洗浄する。感染者の便、嘔吐物に直接接触しない。
糞便や嘔吐物を処理する場合には、手袋やマスクを着用し、汚物中のウィルスが飛び散らないようにペーパータオル等で静かにふき取るよう注意すること。また、ふき取った後は次亜塩素酸ナトリウム(濃度200ppm)で汚物によって汚染された床等も消毒すること。
参考:食品安全委員会HP